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校正と校閲は何が違う?——企業発信の信頼を守る「最後の砦」の話

 2026.08.28

「新製品のプレスリリースで、価格の桁をひとつ間違えて配信してしまった」 「オウンドメディアの記事で、お客様の社名の表記を誤り、お詫びの連絡に追われた」 「パンフレットを1万部刷ったあとで、役員の肩書きが古いままだと気づいた」

企業の広報・マーケティングのご担当者なら、こうしたヒヤリとする経験が一度はあるのではないでしょうか。あるいは「まだ起きていないだけ」かもしれません。

文章の誤りは、起きてしまえば訂正やお詫び、刷り直しといった直接のコストを生むだけでなく、「この会社の情報は当てにならない」という無言の評価となって、じわじわと信頼を削っていきます。その手前で誤りを食い止める工程が「校正」と「校閲」——いわば、公開前の「最後の砦」です。

ところがこの2つ、名前は似ていますが、見ているものも、必要なスキルも、まったく別物です。

この記事では、創業から20年、書籍・雑誌からオウンドメディア、広報誌まで数多くの「世に出る前の原稿」と向き合ってきた私たち編集プロダクション・ブリッジワークスが、校正と校閲の違いと、企業発信における実践的なチェックの考え方をご紹介します。

結論から——校正は「文字」を見る、校閲は「中身」を見る

最初にひとことで整理してしまいましょう。

校正は、文字や表記の誤りを正す仕事です。誤字脱字、変換ミス、表記のゆれ(「取り組み」と「取組み」の混在など)、修正指示が正しく反映されているか。原稿という「器」の傷を探します。

校閲は、書かれている内容そのものを疑う仕事です。事実関係は正しいか、数字やデータに誤りはないか、固有名詞や肩書きは最新か、論理に矛盾はないか、誰かを傷つけたり法に触れたりする表現はないか。器に盛られた「中身」を検分します。

たとえば、ある企業サイトにこんな一文があったとしましょう(数字は架空です)。

当社は2015年の創業以来、10年間で延べ1,200社さまの制作をご支援してきました。

校正者は、「延べ」が「述べ」になっていないか、「1,200社さま」という表記が社内ルールに合っているか、といった文字面を見ます。

一方、校閲者はこう考えます。「創業は本当に2015年か? 登記情報や会社概要と一致しているか」「2015年創業なら今年で11年目では? 『10年間』でよいのか」「1,200社の根拠となる集計はあるか」——同じ一文でも、見ている場所がまるで違うのです。

校正の仕事——「読む」のではなく「照らし合わせる」

校正の基本動作は「突き合わせ」です。

修正前の原稿と修正後の原稿を一字ずつ照合し、直すべき箇所が直っているか、直す必要のない箇所が変わっていないかを確かめます。とくに恐ろしいのが後者で、修正作業のはずみで別の場所が消えたり動いたりする事故は、制作の現場では決して珍しくありません。

もうひとつの動作が「素読み」です。

原稿を先入観なく読み、誤字脱字や表記ゆれ、文法の乱れを拾っていきます。ここで大切なのは、内容を「理解しながら読まない」こと。人間の脳は優秀なので、文脈から意味を補完して、目の前の誤字を「正しい文字」として読んでしまいます。書いた本人が何度読み返しても誤植に気づけないのは、能力の問題ではなく、脳の仕組みの問題なのです。

だからこそ校正は、「書いた人以外」が「文字として」読むことに価値があります。

校閲の仕事——すべての記述を「疑ってかかる」

校閲の基本姿勢は、健全な疑いです。原稿に書かれた事実の一つひとつについて、「本当か?」と問い、信頼できる情報源に当たって確かめていきます。

企業発信で校閲が拾うべきポイントは、おおむね次の5つに整理できます。

  1. 固有名詞——社名、人名、製品名、地名。「株式会社」の前後、アルファベット表記の大文字小文字まで。他社名の誤記は、それだけでお詫び案件になりえます。

  2. 数字——価格、日付、統計データ、単位。桁の誤りは実害に直結します。

  3. 時間の整合性——「創業20年」「昨年度」といった表現は、公開時期がずれると誤りになります。肩書きや組織名も「取材時点では正しかった」が通用しません。

  4. 論理の整合性——冒頭と結論で言っていることが食い違っていないか。図表と本文の数字は一致しているか。

  5. リスク表現——差別的な表現や他社への不用意な言及、根拠のない「業界No.1」「日本初」(景品表示法の優良誤認にあたるおそれ)、薬機法に触れる言い回し。ここは炎上と法務トラブルの火種になる領域です。

お気づきかもしれませんが、この仕事は「文章がうまい」こととはあまり関係がありません。必要なのは、調べる根気と、「もっともらしい記述ほど疑う」姿勢です。

AIで文章が量産できる時代、重みを増すのは校閲です

「なぜ、AI時代に編集プロダクションが選ばれるのか?」という記事でも触れましたが、生成AIの普及で「それらしい文章」を作るコストは劇的に下がりました。その結果、何が起きているか。もっともらしいのに、事実が間違っている文章が、かつてない量で世の中に流れ込んでいます。

生成AIの誤りは、人間の誤りと性質が違います。人間の誤字は「見た目が変」なので気づけますが、AIの誤りは文章として流暢なまま、存在しない統計や微妙に違う固有名詞を自信たっぷりに差し出してきます。つまり、校正では捕まらず、校閲でしか捕まらないタイプの誤りなのです。

文章の生産コストが下がった分だけ、公開前に「中身を疑う」工程の価値は上がっている——これが、日々AIとも付き合いながら制作をしている私たちの実感です。

社内でできる、最低限のチェック体制3つ

とはいえ、すべての発信に専門の校正者・校閲者を立てるのは現実的ではありません。社内でできる工夫を3つだけ挙げておきます。

その1 書いた人以外が読む。 最重要にして最優先です。チェックの精度は「かけた時間」より「目の新しさ」で決まります。どうしても一人で完結せざるをえないときは、一晩置いてから、できれば紙に出して読んでください。画面と紙では、誤りの見えかたが変わります。

その2 「数字と固有名詞だけ」を拾う回を設ける。 通して読むと、脳は内容に引っ張られます。あえて文脈を追わず、数字と固有名詞だけを蛍光ペンでマークして出典と突き合わせる——この「読まない読み方」が、実害の大きい誤りをもっとも効率よく捕まえます。

その3 表記ルールを1枚にまとめる。 「お客様/お客さま」「Web/ウェブ」——どちらでもよい表記こそ、混在すると紙面の信頼感を損ないます。よく使う語だけでも社内ルールを決めておくと、チェックの迷いが減り、誰が書いても品質がそろいます。

まとめ——「最後の砦」は、仕組みで築く

校正は文字を守り、校閲は中身を守る。どちらも、書き手の才能ではなく、工程と体制で品質を担保する仕事です。裏を返せば、「担当者が優秀だから大丈夫」がいちばん危ない状態だともいえます。

ブリッジワークスは、創業から20年、書籍や雑誌といった「刷ってしまったら直せない」媒体の緊張感のなかで、校正・校閲の技術を磨いてきた編集プロダクションです。オウンドメディアの記事から広報誌、周年誌、統合報告書まで、執筆・編集とあわせたご依頼はもちろん、「社内で書いた原稿を、公開前にプロの目でチェックしてほしい」というスポットのご相談にも対応しています。

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