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「Webサイトでは“お問い合わせ”、パンフレットでは“お問合せ”になっている」 「部署ごとに“ユーザー”と“ユーザ”が混在していて、どちらが正しいのか誰も答えられない」
企業の情報発信に携わっていると、こうした表記の“ゆれ”に必ず突き当たります。一つひとつは小さな違いですが、積み重なると「この会社は細部に気を配っていない」という印象につながりかねません。さらに、原稿チェックのたびに「どちらに統一しますか?」というやり取りが発生し、確認作業の時間をじわじわと奪っていきます。
この問題を根本から解決するのが、社内向けの「表記ルール(用字用語集)」です。この記事では、編集プロダクションとして多くの企業の表記統一をお手伝いしてきた経験をもとに、表記ルールの作り方と、作ったあとに形骸化させないための運用のコツをご紹介します。
表記ルールとは、「自社ではこの言葉をこう書く」という約束ごとをまとめたものです。漢字とひらがなの使い分け、送りがな、カタカナ語の長音、数字や記号の書き方、社名や製品名の正式表記などを一覧にしたもので、新聞社や出版社では「用字用語集」「表記統一表」、Web業界では「スタイルガイド」と呼ばれることもあります。
大事なのは、表記ルールは「正解を決めるもの」ではなく「社内でそろえるためのもの」だという点です。「ユーザー」も「ユーザ」も日本語としては誤りではありません。どちらかに決めて、全員が同じように書くことに意味があります。
表記ルールがあると、次のような効果が生まれます。
ブランドの信頼感が上がる:Web、印刷物、プレスリリースと媒体が変わっても、同じ会社の声として一貫性が保たれます。
確認作業が速くなる:「どちらにするか」をその都度議論せず、ルールに照らして機械的に直せます。
外注先とのやり取りが減る:制作会社やライターに最初から渡しておけば、初稿の段階で自社の表記に沿った原稿が届きます。
担当者が代わっても品質が落ちない:個人の感覚に頼っていた判断が組織の資産として残ります。
生成AIでも使える:ルールを指示文に添えるだけで、AIが書く下書きも自社の表記に近づきます。
ゼロからすべてを決める必要はありません。まず「迷ったら何に従うか」という基準をひとつ選びます。代表的なのは、共同通信社『記者ハンドブック』などの報道系の用字用語集や、文化庁の「公用文作成の考え方」です。この基準に従い、自社独自の判断が必要なものだけを上乗せする形にすると、ルールの量を大幅に抑えられます。
Webサイト、会社案内、採用ページ、過去のプレスリリースなど、代表的な発信物を並べて、同じ言葉がどう書かれているかを拾い出します。特に社名、製品名、部署名、役職名などの固有名詞は、ゆれがそのまま信頼問題に直結するので優先的に確認しましょう。
集めたゆれごとに、どちらに統一するかを決めます。迷ったときは「読者にとって読みやすいのはどちらか」「既存の発信物で多いのはどちらか」の2点で判断すると、社内の合意も取りやすくなります。決めた理由も一言残しておくと、後で「なぜこうなっているの?」と聞かれたときに説明できます。
ルールは文章で説明するより、「○(使う表記)」「×(使わない表記)」「備考」の3列の表にするのがおすすめです。五十音順に並べるか、「漢字とかな」「カタカナ語」「数字・記号」「固有名詞」のように分類すると、必要な項目をすぐに探せます。Excelやスプレッドシートなど、誰でも検索・更新できる形式で作るのが理想です。
完成したら、文章を書く可能性のある部署と外注先に共有します。共有するだけでなく、「原稿を依頼するときは必ず添付する」という運用ルールもあわせて決めておくと、確実に使われるようになります。
すべてを網羅しようとすると、いつまでも完成しません。最初は、ゆれやすく目につきやすい次の項目から決めるのがおすすめです。以下はあくまで一例です。自社の方針に合わせて「○」と「×」を決めてください。
分類 | ○ 使う表記 | × 使わない表記 | 備考 |
|---|---|---|---|
漢字とかな | できる | 出来る | 「可能だ」の意味ではひらがな |
漢字とかな | こと・もの・とき | 事・物・時 | 形式名詞はひらがな |
送りがな | 問い合わせ | 問合せ・問い合せ | 見出しでは「お問い合わせ」 |
カタカナ語 | ユーザー | ユーザ | 語末の長音は付ける |
カタカナ語 | Web | WEB・ウェブ | 自社方針でどちらかに決める |
数字 | 3つ・10人 | 三つ・十人 | 横書きは半角算用数字。「一般」など熟語は漢数字 |
日付 | 2026年10月5日 | 2026/10/5 | 曜日は(月)のように付ける |
記号 | 「」『』 | “” | 書名は『』 |
固有名詞 | 株式会社○○ | (株)○○・○○社 | 初出は正式名称 |
敬語 | お客さま | お客様 | 自社のトーンに合わせて決める |
このほか、「です・ます調かだ・である調か」、「自社の呼び方(当社・弊社・私たち)」といった文体のルールもあわせて決めておくと、媒体ごとのトーンがそろいます。
表記ルールでよくある失敗は、「作ったことに満足して誰も見なくなる」ことです。使われ続けるルールにするために、次の4点を意識してみてください。
最初は30〜50項目程度で十分です。原稿チェックで新しいゆれを見つけたら、その都度追加していく「育てる運用」のほうが、実際に使われるルールになります。
更新の判断をする人を広報部などに一人決めておきましょう。誰でも自由に書き換えられる状態だと、いつの間にかルール同士が矛盾してしまいます。更新日と変更履歴を残しておくと、外注先も最新版を確認しやすくなります。
引用文、お客さまの発言、法令名、他社の製品名などは、自社ルールより原文や先方の表記を優先するのが原則です。この「例外」を最初に明記しておかないと、ルールを厳密に守ろうとした結果、かえって誤りが生まれてしまいます。
Wordの「表記ゆれチェック」機能や校正支援ツールにルールを登録しておくと、目視では見落としがちなゆれも拾えます。ただし、文脈によって使い分ける言葉は機械では判断できないため、最終的には人の目で確認することが欠かせません。
表記ルールは、一度作れば、社内の確認作業を減らし、外注先とのやり取りをスムーズにし、すべての発信物に一貫性をもたらしてくれます。大切なのは、基準を決めて小さく始め、使いながら育てていくことです。
とはいえ、「既存の発信物が多すぎて、ゆれを洗い出すだけでも大変」「どちらに統一すべきか、社内で判断がつかない」というお声もよく伺います。ブリッジワークスでは、既存の発信物の表記調査から、用字用語集の作成、その後の校正・校閲まで一貫してお手伝いしています。自社の表記を整えたいとお考えの際は、お気軽にご相談ください。
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